徳島県で古い着物を使って家具や小物、衣装を作っている大野留美さんは、「思い出ビジネス」を営んでいる。思い出の着物が家具やマット、木箱の一部に組み込まれている。この着物、実は亡くなったおばあちゃんが昔来ていた着物。箪笥の奥に眠っており、今着るには生地が古すぎるし、だからといって昨今の着物ブームに乗って着物のリサイクル業者に売るのも心苦しい。そのまま箪笥の肥やしとして寝かせるしかないのか?そういった悩みに応えるため、大野さんは、おばあちゃんの着物を思い出としていつも使う家具や小物に組み込むビジネスを 2年前に始めた。

最近日本では着物ブーム。ここ数年この現象が続いており、今では若い女性でも着物姿で街中を歩いている人を見かけることがめずらしくはなくなった。しかし、この着物ブームが再燃する前は、ほとんどの人が着物には見向きもしなかった。時代によって着物の詳細は異なるが、そもそも日本ではずっと着物が着用され、1950 年代くらいまでは女性は日常的に和服をていた。祖母が、着物の上から割烹着を付けて台所に立っていた姿は、50 代以上の日本人なら記憶に残っているだろう。ところが、その後、一挙に洋服へのシフトが起こる。

若い女性や母親世代はもちろん、おばあちゃんも洋服を着用するようになった。1980 年代になってバブル経済になると、着物は普段着ではなく晴れ着として扱われ、高級な着物が市場に出回るようになった。着物は、成人式や結婚式のような特別な機会に着る晴れ着としての地位を占めるようになり、100万円以上する煌びやかな着物が飛ぶように売れた時期が来る。この後、90 年代に悪名高いバブル経済の崩壊を日本は経験し、高価な着物が売れなくなる。それ以来、着物は下火を続けるのだが、5 年前くらいから再び着物にブーム訪れる。今日、老若男女問わず、着物は結婚式でなくてもちょっとしたお出かけレベルで着用され、需要は増えている。それに伴い、着物のリサイクル業者も拡大し、週末の蚤の市などでは大量の古い着物が安価で流通している。

一方、亡くなったおばあちゃんの着物は箪笥の奥に眠っている。着物市場が再活性化したため、古い着物でもリサイクル業者は喜んで買ってくれる。しかし、売る側としては、おばあちゃんの思い出を丸ごと売ってしまうようで割り切れないのだ。大野さんはそこに目を付けた。彼女は、かつて 5 年ほど着物業界で働いた経験があり、着物には詳しい。彼女はまた、インテリアコーディネーターとしても活躍している。インテリアと箪笥の奥に眠るおばあちゃんの懐かしい着物を融合させられないか? そしていつまでもおばあちゃんの思い出を感じながら、使い勝手がよく、見た目も美しいないかができないか? 「思い出家具」はそんな思いから着想を得た。「おばあちゃんの懐かしい着物を毎日使う家具やテーブルクロス、小物入れに活用すれば、いつも思い出と隣り合わせに暮らせると思ったんです」と大野さん。

中でも徳島県の伝統染色である、藍を使った木箱は彼女が注力している作品だ。上部がおばあちゃんの着物になっていて、箱は徳島の藍の染料を塗っている。徳島県の特徴を生かした。「この中におばあちゃんの思い出の品を入れてもいいですし、自分のアクセサリーや小物を入れてもいいですね。部屋の片隅に自然において置けるデザインを目指しました。

今もおばあちゃんがここにいて見守ってくれているかのようです」と大野さんは言う。着物が年を重ねにつれ、新しいものに生まれ変わっているかのようだ。逆説的だけど、年を取ることで生まれ代わり、新しい力を生み出しているのだ。

この「思い出家具」は、生地を提供すれば、デザインから制作までカスタマイズしてくれる。デザインの部分は、おばあちゃんの生き方を反映できるよう、しっかりとヒアリングした上で提案してくれる。

また、特に個人の思い出がない着物の生地でも、あるいはリサイクルの着物でも、大野さんのマジックで洋服やダンスコスチュームに生まれ変わることができる。彼女は、地元で約 40 名のベリーダンスの会を主宰しており、老人ホームなどの慰問公演にチームでよく出かける。「4年前に慰問を始めた時はアラビア風のベリーダンス衣装でした。でも、2 年前に着物で作ったコスチュームで踊ったら、おじいちゃん、おばあちゃんがとても喜んでくれたんです。昔は普段着として着物を着ていらした世代の方々ですから、私たちの衣装を見て、若い頃の自分の晴れやかな姿を懐かしんでくださっているのかもしれません」と大野さんは言う。このベリーダンスの衣装を作っている一人、外山久美子さんは、自分でもベリーダンスを習いながら、いい着物を見つけては衣装を作っている。「もともとクラシックバレーを習っていたんですが、2年前に大野さんのベリー ダンス教室を見つけ、通い始めました。着物を使った衣装での慰問公演はやりがいを感じます。みなさんとても喜んでくださいますから。」

着物コスチュームは派手で煌びやかな色の着物を使う。衣装として着る場合は、機会が限られるが、写真のようにワンピースとして着ると普段着でも十分着用できる。昔は着物として普段着だったものが、今は姿を変えて普段着として着ることができる。薄い生地であれば、軽く羽織れるフリーサイズの普段着に仕立てるとおしゃれ着としても便利だ。着物は布だから、時間がたつと劣化する。たとえ家具に生まれ変わっても永遠ではない。しかし、活用し目に触れる場所に置いて毎日使うことで、思い出は劣化せずに蘇る。お盆やお彼岸のような特別な日だけお参りにいくのではなく、おばあちゃんの思い出を生活の中で日々感じること、大野さんはそこを目指している。将来の夢は、日本の古い着物や海外でも個人の想いが詰まった服を使った「思い出家具」や「思い出小物」をパリで売ることだ。